「18歳は大人か!?」NHKテレビクローズアップ現代〔4月11日(水)放送〕

 2012年4月11日(水)19:30~19:55、NHKテレビで放送されたクローズアップ現代「18歳は大人か!?」は、若者の政治参加とシティズンシップ教育に関する興味深い番組でした。放送された順を追って番組の内容をお伝えします。

問題意識の背景

 今、選挙権年齢を18歳に引き下げるべきかなど、何歳以上を大人と見るべきなのかが議論になっています。背景には、先細る一方の日本社会の閉塞感や1000兆円を超える国家の赤字などがあり、若い人たちの政治への参加の幅を広げる必要が言われています。ところが、当の10代の若者へのアンケートでは、選挙権を18歳に引き下げることに反対の人は57%、賛成は43%という事情があります。若者自身は、大人になることを望んでいるわけではないようです。
 人口構成上少数派になってしまった若者の声は、政治に届きにくくなっています。成年年齢は別として、政治に若い力を取り込みたいという考えがある一方、世論には批判も多いようです。理由は、まっとうな判断ができない、政治を批判する力が乏しく、ポピュリズムに流される怖れがあるというものです。

秋田県旧岩城町の例

 10年前、初めて18歳以上の若者を住民投票に参加させた町として、合併前の旧岩城町があります。当時の町長は、町の将来を決める際に、将来を担う人たちの声を聴いて悪いことはないと思ったそうです。そのとき高校3年生で投票した男性は、投票が社会へ目を向けるきっかけになったと言っています。「資料を読んで、町の財政状況を初めて知った。地域の担い手としての役割を気付かせてくれた。投票により自分の力で町を変えることができると思った。」

世代間格差の是正の必要

 医療・年金に関わる支出額と受取額の生涯収支をみると、現在60歳以上の人は4000万円のプラス。一方、20歳未満の人は8000万円のマイナスとなる計算です。こうした格差を踏まえて、どのように制度を手直ししていくのか。この問題を考えるにあたっては、重い負担を追うことになる若い世代の意見も聞かなければなりません。社会に関心をもち、参加する若者を少しでも増やす必要があります。
 しかし、選挙権年齢を18歳に引き下げることについて街頭でインタビューに答える若者は、「お金を親に払ってもらって生活しているから。」「どっちでもいい。」と消極的です。

教育の役割

 若者が成人として扱われたり、選挙権を与えられることになぜ消極的なのか。立命館宇治高等学校の杉浦真理先生は「社会への理解を深める教育に力が入れられてこなかったことに問題がある。」と考えています。杉浦先生は、高校で京都市長選挙を教材にした模擬選挙授業を実践しています。候補者の政策を評価するためには、日頃から社会に関心をもち、知識や経験を積み重ねる必要があります。生徒の多くが18歳への選挙権引き下げに消極的であり、求められる意欲との隔たりは大きいとのことです。自分の力で社会に影響を与えられる確信がない若者が多く、社会に対する知識や判断力をどのように身につけてもらうかが課題になっています。

若者が消極的な理由

 慶應義塾大学の古市憲寿研究員は、若者が選挙権年齢の引下げに消極的なのは、政治に興味をもたせるような社会になっていないからだと指摘します。たとえば若い社会人を見ても、労働時間が長く、社会に関心をもつゆとりがないこと。20代の若者の生活満足度は、満足している男性が約65%、女性は約75%(2010年)と、高い割合であることが挙げられます。その一方で、政治への関心は1998年には関心がある人は37.2%でしたが、2008年には57.9%と増えてはいます。大人が若者に権利を与えることで、意識が変わるだろうということです。

スウェーデンのシティズンシップ教育の例

 若者と社会の関わりを深める取組みの例として、スウェーデンのシティズンシップ教育があります。スウェーデンでは、幼い頃から社会に関わる資質を養う教育を進めています。それがシティズンシップ教育です。若者は、将来の市民としてではなく、現在の市民として、より良い社会の実現になくてはならないという考え方に支えられています。
 たとえば学校では、子どもたちも学校の運営・経営に積極的に関わり、教師と対等に意見を述べます。子どもの声から、学校のカフェテリアに目隠しが設置されたり、照明が選ばれたりしました。社会への理解を深める実践的教育では、警察官や消防士などを定期的に学校に迎えて、社会に役立つと思うアイデアを提案してもらう授業もあります。その授業により、生徒からの情報をもとにした警察のパトロールが実現しました。こうした経験を積むことで、子どもは自分たちの手で社会を良くすることができると実感するということです。
 学校以外にも、社会の担い手としての資質を養う場が100以上もあります。たとえば、全国青年協議会など、重層的な仕組みがつくられています。スウェーデンの若者で社会に影響を与えられると考えている人は65%、日本は24%です。日本も、若者に社会との関わりを練習させるチャンスをつくることが望まれます。

日本の課題

 古市研究員は、ヨーロッパは被選挙権年齢も日本より低いと言います。本気で社会を変えたいなら、選挙権を2歳引き下げるだけでなく、若い1票の重みを重くするといったことを考えてほしいそうです。社会の本気度を大人が見せられるかが課題であり、若者へのエンパワメントをもっと積極的にしてほしい。若者が高齢者と手を組むチャンスでもある、とのことでした。

番組を見て

 放送の翌日、シティズンシップ教育の研究をされている高校の先生から、番組の感想をお寄せいただきました。
「『日本の若者の政治意識は低く、無関心層が多い』と嘆く前に、まず私たち大人が、社会システムとして若者たちの声を聴く場をつくっていく必要があることを感じました。北欧(スウェーデン)での先進事例の紹介は『このようなこともできるのだ』と、目から鱗でした。
国会では、年金制度をめぐる負担と保障の問題はじめ、若者たちに深く関わる問題が議論されています。高校の授業でもどのような切り口で取り上げるべきか、考えさせられました。」
 スウェーデンの教育の例は、学校の運営・経営そのものが教育の場となっていますし、実社会と深く関わる授業もされています。日本では、学校評議員制度が始まり、「児童・生徒との対話」も学校関係者評価の内容に含まれるようになりましたが、「児童・生徒との対話」の割合は低く(平成20年度文部科学省調査による)、学校の運営・経営そのものが若者の社会に関わる資質を養う場になっているとは言い難い状況だと思います。政治教育については、偏ったものにならないようにという気遣いのあまり、知識の習得のみに重点が置かれる傾向があったようです。

 法教育レポートでは模擬選挙授業や財政についての討論の例などを取り上げてきましたが、授業の成果が身近な学校生活や実社会に還元されるものではありませんでした。さらに深く実社会と関わり、児童生徒の声が身近なところで活かされるような実践が必要なことを感じさせられました。そのようにして若者の社会に対する自分の有効感を養うことが、法的な参加の力にもつながると思います。また、法教育における法的参加の重視が、若者の社会参加への関心や意欲を増すことにつながっていくことも期待されます。

ページトップへ