法教育インタビューシリーズ(6)弁護士・吉田幸加先生

 吉田幸加先生は、日本弁護士連合会市民のための法教育委員会委員、第一東京弁護士会法教育委員会副委員長、法と教育学会監事を務められ、さまざまな法教育活動に取り組んでおられます。ゴールデンウィークのはざまの5月2日(水)、弁護士会館にてお話を伺いました。

法教育との出会いまで

――どのようなきっかけで法教育に関心をもつようになられたのですか?

 大学時代に、「どうして日本人は議論ができないのか」という問題意識をもち始めました。自分自身の経験や、友人の話から、あるグループ内で意見の対立が生じたとき、自分の意見を批判された人が、まるで全人格を否定されたように感情的になってしまい、冷静な議論にならないということが少なくなかったからです。そして、その原因について、日本では、家庭でも学校教育においても、議論をすることがないからではないか、議論をする訓練を受けてこなかったからではないか、と思うようになりました。そのため、学校教育の中にもっと議論を取り入れるべきだと考えるようになりました。議論のためには思考が必要ですが、日本の学校教育では、思考することについてもあまり重視されてこなかったように思います。
 その後、司法試験の勉強をしていた頃、新聞記事で、学校に出向いて刑事模擬裁判などを行い、ディスカッションを通じて多面的なものの見方を習得してもらうといった活動をしている弁護士の存在を知りました。私も弁護士になったらこのような活動をしたいと思いました。
 私が弁護士になった当時、第一東京弁護士会には広報委員会の中に講師派遣部会があり、弁護士が学校に出向いてオリジナル教材を使った刑事模擬裁判の授業を行う活動をしていました。私も講師派遣部会に入り、このような活動に加わるようになりました。
 そのような中、2002年に、関東弁護士会連合会のシンポジウム「子どものための法教育~21世紀を生きる子ども達のために~」が開催され、これに出席しました。そして、そこで紹介された法教育の趣旨に深い共感を覚えたのです。

第一東京弁護士会法教育委員会の法教育活動

――第一東京弁護士会における法教育の取組みをお聞かせください。

 2006年、第一東京弁護士会に法教育委員会が立ち上がったので、希望して委員になりました。法教育委員会は、春休みや夏休みにジュニアロースクールを開催したり、出張授業に委員を派遣したりしています。出張授業の依頼は、年々増えています。出張授業を経験された教員が異動先の学校でも同様の授業を行うことや、教員同士の口コミにより、他の学校へ広がっている状況だと思います。また、第一東京弁護士会のホームページを見て申し込まれる教員の方も少なくありません。2011年度は、小学校・中学校・高等学校合わせて37校で授業を行いました。
 出張授業の受付は、弁護士会事務局が窓口になっており、所定の申込用紙に記入してファックスで申し込んでもらっています。申込用紙は第一東京弁護士会のホームページに載っています。授業実施の2か月前までに申し込んでいただくようお願いしています。
 出張授業のテーマや内容については、その都度学校と打ち合わせて決めています。裁判員制度が導入された影響もあり、申込の段階では刑事模擬裁判の授業の依頼が多いのですが、法教育は、結果として裁判員制度に資するとしても、裁判員制度のためのものではありません。依頼の段階で学校側が具体的な授業のイメージをもっていないことも多いので、刑事模擬裁判ではない内容を含め、こちらからメニューを示して授業内容を提案するようにしています。できるだけグループディスカッションを盛り込み、子どもたちが自ら考え、参加できる授業を目指したいと考えています。
 授業でグループディスカッションを行う場合、学年などにもよりますが、1グループの人数は4~5人が適当ではないでしょうか。1グループ6人以上になると、各自の意見を聞くだけで時間がかかり、授業時間内にグループとしての意見をまとめることが難しくなってきます。
 日本社会では、特に少数意見を言いにくい雰囲気があるように思います。法教育の授業を通じ、少数意見であろうと意見を言うことのできる人、これに耳を傾けられる人、そのうえで社会の問題を公正に解決しようとする人を増やしたい。このような考えから、グループディスカッションのときには、子どもたちからできるだけ多くの意見を引き出し、さまざまな視点から検討できるようにサポートしています。ディスカッションについて「楽しかった」という感想を寄せる子どもは多いです。私自身、無限の可能性を秘めた子どもたちと接することに大きな喜びを感じますし、いつも楽しく授業をしています。

授業内容

――授業の実践例にはどんなものがありますか?

 これまでに行ってきた法教育の授業の一部を紹介します。
 ジュニアロースクールでは、これまで、中学生を対象に、ルールづくりや民事模擬調停、刑事模擬裁判を行ってきました。なお、今年の夏は小学生を対象にしたジュニアロースクールを開催する予定です。
 教室に出向く授業としては、毎年2月か3月に、小学校6年生の社会科の授業で、「私たちと法」というテキストを使った授業をしています。1コマ目は、「ルールがない町」ではどういうことが起こるか、ルールはなぜあるのか、について考えてもらい、さらに、なぜ代表者がルールを決めるのか、なぜ三権分立という制度が採られているのか、といったことについて考えてもらいます。2コマ目は、「このルールに問題はありますか」というテーマで、提示したルールに問題がないか、あるとすればルールを廃止するのか、変えるのか、などについて班ごとにディスカッションをし、最後に発表してもらいます。
 オリジナルのシナリオや、法務省のホームページに載っている教材を用いて、小学6年生や中学生・高校生を対象に、刑事模擬裁判の授業も行ってきました。模擬裁判の前に、「この裁判に問題がありますか?」というテーマのプリントを読んでもらったりして、刑事裁判の仕組みや意義について考えてもらうこともあります。架空の国の刑事裁判の話を読んでもらい、この裁判に何か問題はないか、あるとしたら何故問題なのか、ではどのようなルールで裁判を行うべきなのか、ということについて考えてもらいます。
 小学校で刑事模擬裁判を行ったときは、中学生向けのシナリオのうち、証人尋問・被告人質問の質疑応答部分だけを使い、かつ表現や内容を少し易しくしました。そして、「何が事実なのか、証拠から考えよう」というテーマで、被告人の有罪・無罪について議論してもらう授業を行いました。
 刑事模擬裁判でも、班ごとに議論をした後、各班の結論と結論に至った理由とを、画用紙に書いて貼り出すなどして発表してもらいます。班により異なる結論が出されたり、自分の班とは違った視点での理由が挙げられたりするのを見て、子どもたちが驚くことは少なくありません。
 そのほか当委員会の出張授業では、裁判シーンのDVDを視聴して模擬評議を行ったり、アイドルグループ対出版社事件の教材を使って、ディベート形式の民事模擬裁判の授業を行ったりしてきました。高校で労働問題についてのグループディスカッションを行ったこともあります。 

今後の取り組みについて

――今後の取組みとして、どのようなことをお考えですか?

 第一東京弁護士会の法教育委員会には、現在約130名の委員が所属しています。このように人数が増えましたので、委員長・副委員長を中心に、どのようにしたら有意義な活動ができるか、新たなシステムを構築しようと考えているところです。
 たとえば、学校から出張授業の依頼があった場合、現在は、毎月1回の委員会の場やメーリングリスト上で派遣する弁護士の募集をしていますが、なかなか決まらなかったり、一部のメンバーが何度も担当するといった傾向も見られます。今後、名簿制にして経験者と未経験者とが組んで授業を担当するなどし、できるだけ多くの委員に法教育の授業の楽しさを味わってもらい、委員会全体を活性化することを検討しています。
 また、メニューを一覧化したりチラシを作ったりして、委員会の活動内容を分かりやすく内外に伝えることも検討しています。新たなオリジナル教材も作っていきたいですね。
 日本弁護士連合会市民のための法教育委員会には、全国各地の弁護士会で法教育に携わっている委員が集まっています。委員会の場で他会の活動状況を聞いたりして、刺激を受けることが多いです。私自身は、現在、教材作成チームに所属しています。教材の作成はなかなか大変な作業ですが、多くの方に利用していただけるものを作りたいと思い、チームのメンバーとともに取り組んでいます。

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