教科書を見るシリーズ 小学校編「国語」(4)第5学年 後半

 第5学年国語の光村図書の教科書後半と教育出版の教科書下巻を、弁護士の塩川泰子先生と共に法教育の視点から見ていきます。

〈『国語 五 銀河』光村図書(2014年)後半(p.126~)より〉

【グラフや表を引用して書こう】(p.138~141)
 「理由づけを明確にして説明しよう」というテーマの教材です。自分の意見を書く際に、グラフや表を用いて裏付けをする方法を紹介しています。グラフなどについては、何という本の何ページから引用したかなどを書くよう注意しています。例として、日本のごみの排出量と暮らしやすさの関係が取り上げられています。

――第4学年の教科書を見た際、「調べたことを整理して発表する訓練自体が、法教育の観点から意味がある」というコメント注1を先生からいただいています。第5学年ではさらに、調べた内容についての裏付けを科学的に行う方法を訓練するということですね。これは主張の根拠を大事にする法教育の方法と共通すると思いました。国語の学習が、法教育の土台となることがおのずと意識されます。
引用については、第4学年下巻の教育出版の教科書を見た際にも、「引用にはルールがある」ということを簡単に説明する方法をご紹介いただきました注2。ここにその一部を引用させていただきます。
「小学校では著作権そのものを扱う時間はなかなかとれないと思いますが、もしそのような授業をする機会がありましたら、文化庁のウェブサイトでこども向けの解説マンガを公開していますから、こういうものを利用するのも1つの手かもしれません。」
 さらに、塩川先生は、「引用する側の立場と、無断で引用されたらどう思うかという、引用される側の立場に立って考えてみること」を提案しておられました。

【ゆるやかにつながるインターネット】(p.166~174)
 筆者は、「広いはんいにわたってゆるやかなつながりを築けるところに、インターネットの特色があると思う」そうです。筆者がいう「ゆるやかなつながり」とは、家族や親友とは違い、特定の会話や場面で登場するような人たちとのつながりで、数が多く、多様で、切れることも珍しくない関係です。
 ゆるやかなつながりの素晴らしさと共に、「あやうさがあること」も指摘されます。その1つは「コミュニケーションの難しさ」、もう1つは「つい無責任になりがちだということ」と述べられています。
 本文の後には、「次の観点で友達と話し合い、考えを深めよう。」(p.173)という項目があり、インターネットによるコミュニケーションと対面でのコミュニケーションとの比較や、インターネットを使ってどのように人とつながりたいか、社会のためになるインターネットの使い方といったテーマが与えられています。

――インターネットに関する内容は、シリーズ小学校編「国語」(4)第5学年前半の【インターネットを使って調べる】や【インターネットで調べよう】の項で扱っています。その際は、「情報との接し方」についての態度を考えました。また、【電子メールで伝え合う】という教材では、「メール使用の際の問題点をみんなで考え」「メール使用の約束を考える」という提案をいただきました。
 今回の教材は、インターネットにより人とつながることについて考えるものですので、【電子メールで伝え合う】の項でいただいたコメントが当てはまるのではないかと思いました。

【すいせんします】(p.180~184)
 冒頭で推薦の定義がされたあと、推薦の方法が示されます。そして、クラスの研究を支援してくれる人と、学級文集の表紙に使う絵についての推薦例が取り上げられています。

――シリーズ小学校編「国語」(4)第5学年前半でも、教育出版の【すいせんのスピーチをしよう】の項で、「自ら調べて推薦できる点を考えるというのは、社会参加意識を育てるよいきっかけになるでしょう。」「自分が良いと思うものを説明して人に伝える訓練は、決め事をするときやもめごとを解決する話し合いでも役立つと思いますよ。」というコメントをいただきました。

〈『ひろがる言葉 小学国語5下』 教育出版(2014年)より〉

【世界遺産白神山地からの提言―意見文を書こう】(p.12~25)
 冒頭に、「下の図のような手順で自分の意見をまとめ、発表しましょう。」として、「知る→資料を参考に自分の意見をまとめる→友達と意見を交流し、考えを書いて発表し合う」という3段階が図に示されています。
 「知る」の段階には、自然環境を見直す機運が高まって、白神山地の保護運動が日本全国に広がった結果、中心の部分がユネスコ世界遺産の1つに登録されたことなどが紹介されています。さらに、白神山地の世界遺産地域は、「核心地域」と「緩衝地域」という2つの地域に分けられていることについて説明されています。「意見をまとめる」の段階では、「多くの情報を参考にしながら、考えの根拠をはっきりさせていくことが大切です。」と書かれています。「友達と意見を交流し合う」段階では、みんなの意見を整理する方法として、いくつかの意見を視点ごとにグループ分けする例が示されています。

――「考えの根拠をはっきりさせていくこと」を重視する点は、冒頭の【グラフや表を引用して書こう】の項と同様に、第5学年の学習指導要領に沿っています。

塩川先生:学習指導要領の関係でいうと、第5学年の目標として「目的や意図に応じ、考えたことなどを文章全体の構成の効果を考えて文章に書く能力を身につけさせるとともに、適切に書こうとする態度を育てる」などが掲げられています。
この教材で扱う「意見」の「目的」は、情緒的な感想や共感よりも、自然保護という社会問題を改善するための建設的な議論をすることといえるでしょう。建設的な議論をするという観点からは、「考えの根拠をはっきりさせていくこと」がとても重要ですね。「だって、大切だから」という意見だけでは「そこまで大切?」という人を説得できず、話が一向に進みません。
 この教材は、資料も6まで用意されており、3~、4年生に比べて、培おうとする能力の内容もより高度に、より具体的になってきているなという印象を受けます。この教材を使うことで、考えの根拠をはっきりさせて意見をまとめる訓練ができますが、それだけではなく、先生方から、大人の一員として、今している訓練がどんなふうに役立つか、どんなふうに必要か、生の声を伝えてあげると、学習指導要領にいうところの「適切に書こうとする態度を育てる」ということにつながるのではないでしょうか。「大人になったら、いろんな問題にぶつかる。話を聞いてあげてすっきりするというような問題だけではなく、『じゃあ、どうしたらいいのか』を具体的に考えなければいけない場合がある。そういったときに、『なんで』その改善策がいいのか、考えの根拠を伝えることが大切」といったようなことです。

 

――また、これはユネスコ世界遺産という国際的なルールに触れる教材でもあります。それについては、いかがですか?

塩川先生:そうですね。現代社会では、顔を合わせる関係のコミュニティーだけでなく、国際社会での関わりがあります。顔を合わせる機会がない人との関係性は、言われなければ意識することが難しいので、話の中で出てきた際に少しずつ馴染んでいくことはとても大切です。先生方が、「ユネスコって、いろんな国の人が集まっていろんな国のことを見ている国連という団体の一部だよ」と一言、付け足して「あ、日本の自然保護活動もユネスコっていう国際機関が役立っていたりするんだな」という印象をもたせるだけでも、意味があると思います。

 

注1:
教科書を見るシリーズ小学校「国語」編(3)第4学年その1【だれもが関わり合えるように】の項(2014年2月6日掲載)、教科書を見るシリーズ小学校「国語」編(3)第4学年その2【見学したことを報告しよう】の項(2014年2月13日掲載)
注2:
教科書を見るシリーズ小学校「国語」編(3)第4学年その2【「便利」ということ】の項(2014年2月13日掲載)

 

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