教科書を見るシリーズ 小学校編「国語」(5)第6学年 前半

 第3学年から見てきました「国語」教科書ですが、いよいよ最終学年となりました。第6学年の教科書で指導される内容項目は、基本的に第5学年と変わりませんが、教材1つずつのボリュームが増しています。これまで同様、採択の多い2社の教科書について、塩川泰子先生注1とともに見ていきます。今回は、光村図書の教科書前半と教育出版社の上巻についてとりあげます。

〈『国語 六 』光村図書(2015年)前半(p.107まで)より〉

【学級討論会をしよう】(p.45~51)
 学級文庫にまんがを置くかどうかについて、肯定・否定両グループに分かれて討論会をする例が示されています。
 終わりの2ページには「伝えにくいことを伝える」というコーナーがあります。その中で「次のように言うと、相手はどう感じるでしょうか。」として、「他にもボールを使いたい人がいるんじゃないかな。使い方のルールを決めようよ。」という言い方が紹介されています。

――話し合い活動については、これまでも学級会や討論会などの教材に関し、塩川先生からコメントをいただいています。教科書を見るシリーズの第5学年前半注2の中では、学級討論会に関し、「『みんなも大人になったら、(中略)いろんなことを決めていかなきゃいけなくなるから、今日はその訓練ができたかな?』というくらいの投げかけでもいいと思います。」ということでしたね。

塩川先生:そうですね。この単元の出だしに「一つの問題を、肯定・否定の両面から考えることによって、より多くの人が納得できる新しい解決策が見つかるかもしれません」とありますが、大人になってもこれの繰り返しですよね。国家間の話し合いや政治といった巨大なコミュニティーでもそうですし、会社の会議でもそうですし、夫婦のように最小限の人間関係でも。プライベートになればなるほど、ただ聞いて受け止めることが大切になっていく比率は上がっていきますが、何か解決策や一定の決まりごとを探さなければいけない場面はどんなに小さなコミュニティーでもあります。子どものうちは、ものごとを決める権限が認められている場面が少ないので、目的意識を持ちづらいと思いますが、大人になればなるほど、そういう場面は増えるでしょうから、自分も含め、指導する側が大人の代表として、目的意識を繰り返し繰り返し伝えていくことが重要だと思っています 。
 内容面に関していうと、上手に討論をするための技術は、まさに教科書に盛り込まれているとおり、その意見を支える理由を考えていくこと、それを伝えること、反対の意見を聞くこと、そして討論の進め方を整理することが重要ですね。大人になったら、いちいちここまで準備していられない場面が多いわけですが、だからこそ、小学生の頃から、理想の討論の形式を噛み砕いて経験させてあげることが大切なんだと思います。
 また、この単元の最後には「伝えにくいことを伝える」というコラムが設けられており、心理面にも配慮した教材になっているところが、さすが教科書だなーと思いました。イヤな気持ちにならない討論の仕方というのは、実社会では、討論の技術と同じくらい大切ですが、道徳の問題として切り離して考えがちです。この2つを一緒に教えるって、実はすごく大事なことだと思います。「討論」だから技術を磨いて勝つことだけを目標にするというのも違うし、イヤな気持ちにさせることをしちゃいけないっていう倫理観にとらわれて言わなければいけないことを言わないのも建設的な議論を妨げます。
 こういうことって、大人になるとなかなか注意してもらえませんが、討論をすることを仕事にしている者として、襟を正さなければと思わされました。

 

――小学校の教科書が、弁護士として経験を積まれた先生に「襟を正さなければ」と思わせることもあるんですね。教科書の奥深さを改めて感じました 。

【未来がよりよくあるために】(p.92~104)
 未来の社会がどうなっていてほしいと思うか、自分の考えを友だちと伝え合って深め、意見文を書くという教材です。自分の考えを表現しやすくするために、図を使って表す例が紹介されています。四角い図の中央にある円内に「未来がよりよくあるために」と書かれ、円の中心点を原点とすると縦軸上半分は「社会や環境に関わること」、下半分は「人や自分自身に関わること」に分かれています。横軸の右半分は「よさを残していきたい」、左半分は「新たに実現していきたい」に分かれ、全部で4象限に自分の意見を書きこめます。書きこんだ中から、最も大切にしたいことを決めて、そのことがより良い未来につながると考える根拠を調べるよう促しています。そして、グループ内で自分の意見とその理由を発表し、考えを深めようと続いています。 100ページからは資料として、「平和のとりでを築く」という原爆ドームの話が掲載されています。原爆ドームを保存するか、取り壊してしまうか、戦後の広島で議論が続いたことが紹介されています。

――この教材も話し合いの授業です。そして、、文例では、「未来の社会をよりよくするためには、平和が欠かせない。平和であるために、自分に何ができるだろう」と考えて、意見が書かれています。社会をよりよくするために自分にできることを考える活動は、社会参画の一部であり、法教育に求められていることですね。

塩川先生:そうですね。学級会の教材より大きなコミュニティーを扱っていて、まさに法教育の目指すものと直結していると思います。資料に取り上げられている「原爆ドーム保存に関する議論」は、最近でいうと、東日本大震災の震災遺構を保存するか否かという議論があることを彷彿とさせます。そういった時事ネタにつなげたり、社会科の授業と連携したりすると、社会のダイナミズムを感じられるかもしれません。

 

――社会科との連携授業の可能性もある教材ということですね。

〈『ひろがる言葉 小学国語6上』教育出版(2015年)より〉

【引用して話そう】(p.10~13)
 本や雑誌を引用したスピーチ、図や写真を引用したスピーチの例と、出典の示し方が紹介されています。出典は、本や雑誌、新聞、インターネットの3種類に場合分けされ、それぞれの場合の書き方が示されています。

――引用については、第3学年から毎学年、取り扱われています。教科書を見るシリーズ「国語」第5学年前半注3では、塩川先生から詳しい解説をいただきました。さらに第5学年後半注4でも引用が取り上げられていたので、過去のコメントもご参照ください。教科書というのは、大事な項目についてこのように繰り返し各学年で取り扱っていますね。

塩川先生:本当にそうですね。自分が小学生の頃は、まさかこんなに一生懸命作ってもらっていたなんて気づきもしませんでした(笑)
 以前に解説しているので詳しくは省きますが、引用していることをなぜ明らかにしなければならないのかということをおさらいしながら引用の仕方を練習してもらえればと思います。

 

【考えや意見をノートにまとめよう】(p.14~15)
 自分の考えや意見をまとめるために図を利用することが紹介されています。その図のうち、「構成を考える(論理を組み立てる・整理する)とき」の例として「放置自転車はへらすべき」という例が挙げられています。図の中に「放置自転車はへらすべき」という意見の根拠が挙げられているほか、放置自転車をなくす方法として「ルールを守る」「新たなルールが必要」という文章も示されています。

――自分の考えや意見をまとめることは、法教育授業で常に必要とされますね。図では特に、論理を組み立てるときの根拠の部分を枠で囲って、重要視していることがわかります。それだけですと国語教育ですが、事例の中に「ルールを守る」「新たなルールが必要」ということが出てくる点で、法教育にもなるチャンスではないかと思います。“5分で法教育”にするには、どんなコメントを付け加えるといいでしょうか?

塩川先生:そんなに構えなくてもいいと思いますよ。自分の考えや意見をまとめることは、いってみれば、話し合いの下準備として必要不可欠な部分です。大人になれば、むしろ、一人でやる下準備の部分が増えるかもしれません。自分の考えや意見をまとめる訓練自体がとても大切だと思っています。
 でも、そのついでに社会とのつながりを意識させることは、とても意義深いですよね。まず、言及したいことは、「課題」というのは社会にたくさんあるということでしょうか。日本は、全世界から見たら、比較的、豊かで安全な国ですが、それでもニュースをみれば「課題」がたくさん出てくることがわかります。現場の先生方も感じていらっしゃるかもしれませんが、日本も格差社会が進行していると指摘されて久しいところです。その結果、子どもから見た「社会」というものの光景が、その子の置かれた状況によってずいぶんと違うはずです。「課題」を感じていない子にも「課題」があることを知ってもらう意味がありますし、何かしらの「課題」をかかえている子にも「課題」は一つではなく存在し、そして「課題」があることをみんなで共有した上で、社会は前進しようとしているのだと知ってもらうことには大きな意味があるはずです。
 その上で、課題に対して調べることで、これまでどういう対策をしていたかを学ぶことができます。これまでどういう対策をしていたかを知ったら、既に存在する「ルール」の意義もよくわかると思います。だからこそ、「ルールを守る」大切さが実感できるはずです。
 さらに、存在するルールだけでは解決できない場合、「新たなルールが必要」になるわけですが、ぜひここでまた「大人になったら新たなルールはみんなが考えるんだよ」などの一言を添えるといいのではないでしょうか。

 

【グループで話し合おう】(p.40~45)
 グループで話し合いの目的を理解して話し合い、考えや意見を一つにまとめる学習です。「縦割り班活動」という行事でどんな遊びをするかを、話し合って決める過程を紹介しています。まず一人ひとりが自分の考えや意見を述べ、メモを取ります。メモを活用して情報を整理し、話し合いの目的を確認しながら、相手への質問によって議論を深め、みんなが納得のいく結論にまとめます。

――縦割り班という、小さな学校社会の中で行う行事の内容を決める話し合いがされています。おなじみの学級会の話し合いという感じもしますが、これも法教育と関係がありそうな気がします。

塩川先生:そうですね、【考えや意見をノートにまとめよう】では、大きな社会の話でしたからルールを決める主体という想像はしにくいかと思いますが、クラスの中のグループでは、自分たちで考えて決める主体になります。大げさにいえば、自治の練習です。あえて、子どもたちに対して、大げさに「自治」というものの訓練なんだよと言ってしまってもいいかもしれませんね。
 グループの話し合いも課題を見つけて、またはどうしたいか方向性を考えて、そのために今まではどうしてきたのか情報を整理して共有して、決めごとをするわけですから、やっていることの基本は、大きな社会においてしていることと変わらないわけです。しかも、ここでは決まりごとを決める権限が与えられているわけです。おなじみの学級会自体が、実は、小さな「自治」になっているんです。ぜひ活発に議論してもらいたいですね。

 

 

注1:
2016年2月現在、留学中のため、弁護士登録抹消中
注2:
2014年12月18日公開http://www.houkyouiku.jp/14121801
注3:
前掲・注2)レポートhttp://www.houkyouiku.jp/14121801
注4:

 

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