東京弁護士会法教育センター運営委員会「小学校のカリキュラムづくり」その2

 2010年11月19日(金)16:30~17:30、東京弁護士会法教育センター運営委員会と協力校の打ち合わせが行われました。協力するのは中央区立阪本小学校です。第6学年の憲法授業に関する打ち合わせの模様をお伝えします。

〈中央区立阪本小学校プロフィール〉

1872年(明治5年)、第一大区十五小区阪本町28番地(現在地)に創設。第一大学区第一中学区第一小学と称します。
1873年、女子のための1校を同地に開校、これを阪本小学校と称します。
1894年、男女両校を合併し、東京市日本橋区阪本尋常高等小学校と称しました。
1923年(大正12年)、関東大震災で校舎全焼。1928年(昭和3年)、現在の校舎鉄筋3階建て落成。
1945年、戦災により校舎を70%消失。1947年、中央区立阪本小学校と改称しました。
 学校の位置する日本橋兜町は交通の便がよく、銀座線・都営地下鉄の日本橋駅、日比谷線・東西線の茅場町駅からそれぞれ徒歩数分に位置し、昼間は人口が急増する地域です。しかし、地域居住者の減少で、児童数は昭和40年代から300人台となり、その後一時激減しましたが、現在は106人が在籍しています。坂本町公園、中央警察署、日本橋消防署に隣接し、防災に適した教育環境です。
特色ある学校づくりとして、日本経済の中心地という地域特性を生かした金融教育、日本橋地区という特長を生かした日本の伝統・文化理解教育と継承、都心にある学校という特長を生かした環境教育に取り組んでいます。

児童数         (各学年1クラスずつ  平成22年度学校要覧より)

1年 2年 3年 4年 5年 6年
13 9 5 7 7 9 50
10 11 7 9 11 8 56
合計 23 20 12 16 18 17 106

 

〈打ち合わせ参加者〉

校長、副校長、第6学年担任教諭
東京弁護士会所属弁護士8名

〈校長先生より挨拶〉

 今後、期待されている法教育を皆様と一緒に開発できることを嬉しく思っています。よろしくお願いします。

〈授業の導入部分について〉

 第6学年の社会科授業で、小単元「わたしたちのくらしと日本国憲法」に弁護士出張授業「アイドルグループの暴露本を出版してよいのか」を組み込む予定です。この日の打ち合わせまでに、学校側は「指導案」、弁護士会側は「事前授業のお願い及び当日の授業概要案」を用意しています。
弁護士:「事前に憲法の基本的人権に関する授業をしていただくとともに、民事裁判の枠組みの簡単な説明、事例説明と事前学習シートの配布、児童を裁判官・原告側・被告側の3グループに分けるところまでお願いしたいと思っています。」
弁護士会側は事前授業の内容として、教科書(東京書籍)の「公共」「憲法の三つの原則」「市の政治から基本的人権の尊重を調べる」の部分を復習してほしいという要望でした。

 続いて、学校側からの提案があります。
6年担任:「お聞きした事前授業案では、子ども達は飽きてしまうと思います。ここまでの授業で「国の政治と三権分立」「わたしたちの願いと政治」をしてきているので、出張授業を手がかりにして、それから憲法へいく方が面白いのではないかと思います。」
弁護士:「なるほど。「アイドルグループの暴露本を出版してよいのか」という教材では、プライバシーの保護の方向ばかりに傾かないか心配でしたので、「表現の自由」について補足説明が事前にあったほうがいいかと考えたのですが。」
6年担任:「事前に学校の先生が説明するより、弁護士の先生が実践の中で言ってくれるほうが、子どもの中に入るのではないかと思います。」
弁護士:「では、これから当日の流れを学校側と打ち合わせるのがいいですね。」
副校長:「まずやってみると、必要なこともわかってくると思います。」

〈出張授業当日の流れについて〉

事例の概略

 日本橋出版社は、数々の芸能人に関する本を出版する有名な出版社です。今回、男性3人の人気アイドルグループについて、1冊1万円の写真集の出版にあたり、最後12ページに、これまで普通のファンがなかなか知ることができなかった情報をいれようということになりました。メンバーの本名・住所・家の周りの地図・卒業アルバムの中のメンバーだけの写真・メンバーの書いた卒業文集の作文・特別に入手したメンバーの家族の写真です。この取材と印刷に600万円かかりました。
 来週には出版できるという段階で、アイドルグループが所属する事務所から、メンバーが公表していなかった情報が入っているので、出版はやめてほしいという手紙がきました。やめないと、裁判所に出版差し止めを求めるとも書いてあります。しかし出版社としては、このアイドルグループはこれまでも家の近くのお店を紹介するなど個人的なことを発表して人気を上げてきているので、今回の出版だけがダメだというのはおかしい。本が売れればもっと人気が出るので、文句を言われるのはおかしいということになり、出版はすすめるということを書いた返事を出しました。結果、「出版を差し止めるように」と求める裁判が始まってしまいました。あなたがアイドルグループ事務所側の弁護士・出版社側の弁護士であれば、どんな言い分がありますか?裁判官ならどうしますか?

 

 6年担任の当初の指導案では、「民事裁判について知る。」「提示された事例で何が問題になっているのか説明を聞く。」「裁判官・原告側弁護人・被告側弁護人に分かれる。」「それぞれの立場で自分の意見を書く。」という4段階は出張授業当日に実施することになっていましたが、その後にグループ討論をすると時間が足りなくなると予想されるので、そこまで事前授業で行なうことになりました。
6年担任:「6年生は学級文庫にマンガを置いていいか、などについてディベートをすると意見が出ますが、これは難しいと思うので、ちょっとやっても入らないと思います。事前授業で各自の考えまで書いておくといいと思います。」
校長:「裁判はどういう結論になりますか?」
弁護士:「出版差し止めを認めるか、認めないかのいずれかの結論となります。」
「一部のページを削除すれば出版を認めるという結論もあり得ます。最後の12ページだけ削るということです。」
 「この事例のポイントを説明しておかなくていいですか?」
 「最後に種明かし的に憲法に基づく権利を言えばいいのではないでしょうか。」
校長:「最初から権利を言うと、子どもは混乱すると思います。」
副校長:「今回はこうでしたが、他にこういう考えもありますと言っていただければいいと思います。論点が多いと(大変でしょう)。論点は2つぐらいがいいと思います。」

〈当日の掲示資料について〉

 担任の指導案では、当日は裁判の方法についての資料と事例を掲示することになっています。
6年担任:「事例を全部掲示しても読み取れないでしょう。掲示するのはキーワードだけでいいですね。「出版」という言葉もなじみがないですから。「最後の12ページで普通のファンが知ることができなかった情報をいれようということになりました。」という部分など、ここまで読み取れない子どももいると思います。」
弁護士:「データをお送りしますので、先生に手直ししていただくようお願いします。」
校長:「卒業文集は(暴露されると)困りますね。」
弁護士:「600万円という金額は、出版を差し止めてはかわいそうと思われるような額にしました。」
  「人気グループであるという利益考量を入れ込みました。複数の事情をあえて盛り込んであることを読み取ってほしいと思います。」
  「やじ馬的知る権利がどこまで保護されるかとプライバシー権のバランスを考えてほしいと思います。」

〈授業時刻について〉

6年担任:「終了時間がちょっと延びた場合、3・4校時だと給食のほうへ気が散ってしまうでしょう。2・3校時がいいですね。休憩も入れて。」
弁護士:「はい、お願いします。」
6年担任:「では9:40~11:30になります。それなら少し伸びても大丈夫です。」
弁護士:「私達は少し早めに、9:30に集合します。事前授業はいつされますか?」
6年担任:「前日がいいと思います。子どもが忘れないでしょうから。」
弁護士:「見学したいのですが、午後だと助かります。」
6年担任:「5校時1:40からはいかがですか。放課後3:30からは、翌日の授業の時間配分の打ち合わせもできます。」
弁護士:「打ち合わせのみに参加する弁護士もいます。よろしくお願いします。」

〈取材を終えて〉

 小学校と弁護士が協働して授業をつくる様子を、始めからお伝えするのは初の機会です。担任の先生は日頃、児童の様子をよくご存知なので授業づくりをリードし、弁護士は法律的な疑問に応えるという役割を担っている様子です。副校長が「まずはやってみて。」と、レポートその1でお伝えした東大法学部の大村教授と同じことを言われたのが印象的です。
 12月7日(火)の授業本番が楽しみです。

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