東京弁護士会法教育センター運営委員会「小学校のカリキュラムづくり」その4

 2010年12月27日(月)、阪本小学校6年1組で12月7日に行われた法教育授業の検討会が開かれました。ワークシートに書かれた児童の感想と合わせて、お伝えします。(なお、検討会の報告は松宮弁護士にご執筆いただきました。)

〈出席者〉

 阪本小学校・杉本教諭  東京弁護士会・新美弁護士、松宮弁護士

〈児童の感想〉

 授業の感想をワークシートで4段階に自己評価してもらったところ、「授業が楽しかった」「まあまあ楽しかった」という答えが主でした。授業内容と裁判については、「よくわかった」「まあまあわかった」。自分の役割は「まあまあできた」が多いようでした。
【自由記述の感想】
・出版社側弁護士役
 こちらの方は少し不利だったけれど、私なりにすごく良くできたと思いました。裁判についてまたよくわかりました。
・スリーピース側弁護士役
 自分の主張をしっかり言い、被告の意見に反論できたのでよかった。勝ったのでうれしかった。
・最初は圧勝だと思っていたけれど、出版社側の主張がすごかったので、楽しく裁判をすることができました。

〈検討会の内容〉

1)授業後のフォローについて
・模擬裁判の後、杉本先生が独自に考えた事例をもとに、何コマか「模擬裁判形式」の授業を行いました。
・杉本先生が考えた事例は、
 ①刑事的な内容(普段、行いの良いサラリーマンが泥酔して万引きしてしまう事案)
 ②民事的な内容(1人暮らしの高齢女性が複数の野良猫を餌付けして、近所の住民とトラブルになる事案)
 ③単文の問題
  ア 隣のカラオケがうるさくて眠れない。止めさせられないか。
  イ 公園を同じグループが毎日使っていて、他のグループが使えない。他の人たちが使えるようにできないか。
  ウ 高層マンションの建設により、近隣住宅に日が当たらない。どうしたらよいか?
 ④基本的人権という観点から児童が自分で問題を作る(他の児童に答えさせる)。

2)授業についての講評(杉本先生の意見) 
 ①積極的に評価できる点
 ・専門家の関与により、基本的人権の授業が具体的になった。(この部分は、教科書を読むだけでは抽象的すぎるので)
 ・子どもたちが、楽しんでいた。
 ②改善点
 ・事例がもう少し身近な方が良かったのではないか。
 ・今回は、出版社にとって不利な事案であった。もう少し、どちらが勝ってもおかしくないような内容にしてはどうか。 
 ・児童同士(原告・被告)がもっと議論しやすいように、構成を工夫してはどうか。(時間配分など)
    →議論が分断されてしまっていたような感じがした。
 ・判決を考えるのは難しい(もう少し時間をとった方が良いのでは)
 ③提案的な内容
 ・再度やるのであれば、全部で10コマ程度時間をとって、最初に弁護士が関与して模擬裁判をやり、その後に、何コマか事例を用意して議論するという構成にしてはどうか?もしくは、逆に、最初に何個か事例をやって、最後に弁護士が関与して模擬裁判を行うなど
 ・刑事裁判の方が子どもたちには分かりやすいかもしれない
    →小5向けに「名探偵コナン」の刑事模擬裁判のプログラムがある旨を伝える。
 ・これから授業をやる場合の注意点として・・・
 ・全員に発言の機会を作る
 ・経験がないと主張が出てこない
 ・書いてあることしか言わない
 ・身近だけれど考えたことがない問題がよいのでは?(個人の自由と公共の福祉とか)
 ・刑事なら裁判員裁判も面白いのではないか

3)今後について
 来年度は5年生で刑事(名探偵コナンなどを想定)、6年生で民事の法教育の授業をやりましょうということになり、スケジュール調整してもらうことになりました。
 
4)弁護士の感想
新美弁護士
 教材作りがかなり重要だと思います。何度も試行錯誤を繰り返して、小学生が積極的に議論を展開できる内容に作り変えていく必要があると感じました。
 私たちの目指す法教育はどのようなものか、その実践可能な方法論などについて具体的に議論する必要があります。行き当たりばったりで付け焼き刃的な教材や方法では、なかなか有意義な授業にならない気がします。
 ある程度マニュアル化して、どの先生が担当しても問題がないような授業案を作る必要があるのではないでしょうか。刑事と異なり民事は難しいと思います。
 
松宮弁護士
・今回の授業については、杉本先生には概ね積極的に評価して頂けたように思います。
・私自身(松宮・出版社側代理人)の反省としては、出版社側のチームの主張を話し合う際に、子どもたちに「憲法21条」に「出版の自由」と書いてあるということのみを教え、なぜ「出版の自由」が大切かについてはきちんと伝えることができなかったという点です。本来は、「憲法21条」があるから「出版の自由」が保障される、というよりも、「出版の自由」が大切だから「憲法21条」が作られたということを、子どもたちに実感してもらえるといいのですが・・・。子どもたちが、「基本的人権」「表現の自由」などの内容をどこまで、具体的に考えることができたのかかなり不安です。
・授業の後に、杉本先生が、独自に事例を考えて子どもたちに出題したという点は、現場の先生方に法教育の普及に積極的に関与してもらうという観点から、良かったのではないかと思います。
杉本先生は、色々な「紛争」の場面において、「公平」な解決は何かということを児童に考えさせたかったのだと思います。せっかくスリーピースの事例をやったのだから、その後に、このような短く、身近な事例について、さらに話し合いをさせて公平な解決を考える姿勢・能力を身につけるトレーニングをさせるということは面白いのではないでしょうか。できれば、このような教材を弁護士が提供したほうが、より効果的な気がします。
・授業をやりっぱなしにするのではなく、今回、杉本先生から指摘された反省を、他校での取組みや来年度の授業に活かして、継続的に授業づくりに取り組んでいければと思います。
・また、授業を行ううえで、子どものどのような「能力」を育成するのかについて、より具体的に現場の先生方と共通理解を持つ必要があるのではないかと感じました。

〈取材を終えて〉

 今回、レポーターは現場にお邪魔していませんが、参加された弁護士の先生が直接執筆してくださったことで、より具体的な様子や考えがお伝えできたのではないかと思います。
杉本先生からは、今後模擬裁判で取り上げる事例について「身近だけれど考えたことがない問題がよいのではないか」という提案がありました。これは、「経験がないと主張が出てこない」「(教材に)書いてあることしか言わない」という状況からくることだと思います。松宮弁護士が、「基本的人権や表現の自由などの内容を、どこまで具体的に考えることができたか」と言われていることの裏返しでもあります。これから、「基本的人権や表現の自由を考えるためにふさわしい身近な問題」が教材になるといいと思います。
 新美弁護士からは、「私たちの目指す法教育はどのようなものか」議論する必要があると指摘がありました。松宮先生も子どもに「どのような能力を育成するのか」、より具体的に現場の先生と共通理解をもつ必要を言われています。法教育の理念や具体的な方法論が、これからさらに深まっていくことが期待されます。
 学校の授業づくりは、年間計画や単元の位置づけなどいろいろ考えねばならないことがあります。本年度もひき続き、そういった側面もわかりやすいようにこの取組みをお伝えしていければと思います。

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