2015年度レポートを振り返って インタビュー 窪 直樹先生

 今年度のまとめインタビューは、小学校の先生をお迎えします。2009年度にご登場いただいて以来、法教育フォーラムをずっとお見守りくださっている練馬区立大泉第六小学校指導教諭の窪直樹先生にお話を伺いました。レポートの感想の他、ご自身のカリキュラム開発研究の成果や新しい教材アイデアをご披露いただいています。

〈2015年度に掲載された小学校関連のレポート一覧〉

(掲載順)

2015年 4/ 2  教科書シリーズ国語第5学年後半
4/16  子ども未来館法律ゼミ 民法編第2回
6/ 4  子ども未来館法律ゼミ 民法編第3回
8/20  シンポジウム「現代の小学生の道徳的・法的発達について考える(Ⅱ)」
9/1017  対談「法学教育をひらく」西原博史先生・仲道祐樹先生
10/15  東京都行政書士会法教育推進特別委員会「法教育シンポジウム~つなぐ、つなげる法教育~”あらゆる人に法情報提供を”」
11/19  2015年度日本弁護士連合会法教育教員セミナー「小学校の道徳授業案作成」
2016年 1/28  法と教育学会 第6回学術大会 その1:分科会発表から「小学生が法を解釈し判断するまでのプロセス―社会科3年「『子どもの声』騒音問題」の実践を通して」、「小学校における法教育年間指導計画の提案」
2/ 4  教科書シリーズ国語第6学年前半

 

〈教科書シリーズ国語について〉

――上記レポートの中で、読んでみたいと思われたものがあれば、それはどれですか?
その理由やお読みになられてのご感想をお願いします。

窪先生:「教科書シリーズ国語についてお話ししたいと思います。3年前の年度まとめインタビューでも教科書シリーズ社会科についてお話ししましたが、今回は国語ということで、社会科とは違った意義があると感じています。国語は小学校のどの先生も日々実践していますね。第6学年前半の中に“5分で法教育”という言葉が出てきますが、国語シリーズは、法教育を身構えてやるのではなく、日々の実践の中でできる法教育からの視点を提供してくれているのがよいと思います。特別な資料ではなく、教科書を使ってどういう法教育ができるかを提案している点に、価値があります。社会科の教員だけでなく全国のどの先生も、この教科書を使って法教育ができることになり、法教育の一層の普及につながると考えます。
 たとえば、光村図書の第6学年前半「学級討論会をしよう」は、法教育の視点から使いやすい教材です。この教材は5月頃に実践するので、子どもたちにまずは討論のやり方を教えることになります。そして、12月から1月頃に社会科で憲法を扱うので、その頃に社会科のテーマで討論をするというように活用することができます。教科書は他の教科の進度も考え、うまく作られていると思います。討論会をするための素地は、1年生の国語から「話すこと、聞くこと」の単元があり、培われるようになっていますね。1年生は「2人で話す、わけを話す」、2年生は「あったらいいものを対話で説明する」という教材がありますが、学年を追ってだんだん話し合いができるようにしていきます。
 「法教育をしよう」と考えると辛いものがありますが、法律専門家により、既存の実践がこういう視点から見ると法教育の素地になっていると評価してもらえることは、大変励みになります。

〈窪先生ご自身の取組み―法教育カリキュラム開発研究について〉

――最近の先生ご自身のお取組みについてお聞かせ願えませんか?
窪先生:「平成26年度は1年間現場を離れ、教員研究生として東京都教職員研修センターで研修させていただきました。テーマは、法教育が学校に根づくようなカリキュラムを開発することでした。人権教育プログラム・道徳教材集・東京都教育委員会『「法」に関する教育カリキュラム』などを使い、第1学年から第6学年まで学校全体を見渡した教材開発の時間がもらえて、ありがたく思いました。平成27年度は現場に復帰し、5年生の担当をする中で自分の作ったカリキュラムを実践したいと考えましたが、全部の実現は難しかったですね。その中の少しでも実践できればいいと思います。」

――そのカリキュラム開発研究について、法と教育学会第6回学術大会の分科会発表「小学校における法教育年間指導計画の提案」で報告されたのですね。
窪先生:「社会科だけでなく、国語、家庭科、体育、道徳などの既存の単元について、法教育の視点を重視するとどうなるか考え、1年間を通した一覧表を作りました。国語の教科書シリーズについてでもお話ししましたように、法教育を身構えてするのでなく、既にある教材の中に法教育の視点をプラスアルファすることで、法教育が広まりやすくなると考えます。
 以前、第6学年の先生にお願いして、6年生の社会科で憲法の単元の最後に法教育の授業を実践させてもらったことがあります。これまで憲法の学習は、「なぜ憲法があるのか、どうして作られたのか、どんな内容か」ということが中心でした。けれど、基本的人権に関して子どもたちに身近な問題は「いじめ」です。憲法を学んだら、いじめの見方が変わったり、基本的人権の尊重と結びつけて考えてくれたりするだろうかと考えました。この授業のねらいは、「日本国憲法の基本的な考え方について学習したことを活用して、いじめを防止するための法案を考え、いじめは人権侵害であり、決して行ってはならないことを理解し、日本国憲法や法律と自分たちの生活とのつながりについて考える」ことです。
 まず、東京都が作成したDVD「STOP!いじめ あなたは大丈夫?」を3分間見て、いじめと感じた行動をワークシートに書き、発表します。DVDに出てこないことであっても、身近な生活の中でいじめと感じる行動があればそれを発表します。次に、日本国憲法の学習を振り返り、国民の権利について復習します。基本的人権が尊重されるはずなのに、実際はいじめが起きていることを対比させ、いじめをなくすための法律の条文を個人で考えます。考えたことを4人グループで話し合い、1つを発表します。まとめとして、いじめ防止対策推進法がつくられたこと、つくられた背景についての話、第4条には「児童等は、いじめを行ってはならない。」と明記されていることなどを聞き、憲法や法律と自分の生活とのつながりについて考えたことを書きます。
 子どもから出てきた法案は、「ポスターを作る」「自分がされて嫌なことはしない」「みんなで遊ぶ時間を作る」「1か月に1度、担任の先生とじっくり話す」などでした。法律といってよいのか怪しいものもありますが、子どもの感想は、「いじめについて深く考えることができた。」「憲法に書かれていることが身近な生活と結びついていることがわかった。」「いじめはダメという法律があることがわかった。」などでした。いじめ防止対策推進法の趣旨は、「いじめた子を罰するのではなく、自分たちを守るため」ですが、その趣旨が伝わったという意義があります。「なぜこのような法律ができたかについて考える」授業はもっとあっていいと感じました。
 もう1つ、第5学年の社会科では公害について学習します。昭和40年代の公害対策を経て大幅に環境が改善されている今の状況について、どういう対策をしたからなのか予想させました。すると、「きまりをつくったのではないか」と予想してくれた子どもがいました。この学年は、4年生の時にごみの処理の単元で、小型家電リサイクル法がなぜできたかについて授業をしたことがありました。まず、携帯電話を目の前で分解して見せて、ごみとして捨てられる小型家電には、都市鉱山といわれるようにレア・メタルが含まれている話をしました。子どもたちは驚いて、どうしたらごみにならないかを考えました。各家庭が協力するように呼び掛けるという案は出ましたが、それだけでは東京都や国全体には届かないかもしれません。そうしたら、法やルールをつくるという案が出ました。そこで、「小型家電リサイクル法」のことを教え、練馬区の清掃事務所の人を招いて話をしていただきました。リサイクルのためにきまりをつくる発想は、大人と同じだったことを評価してもらいました。この学習の成果が、1年後にも活かされたのだと思います。」

――法やきまりをつくれば広くみんなにルールを守ってもらえるということが、身についているといえますね。
窪先生:
「このカリキュラム表をさらに改善して、広く公開できるようにしたいと考えています。」
――多くの先生方のご参考になると思いますので、是非、法教育フォーラムの教材倉庫に掲載させていただきたいです。関係各所とご調整いただければと思います。

〈新しい教材アイデア①教科書シリーズに関して〉

――レポートへのご要望等、ご自由にお話しいただけますか。
窪先生:「教科書シリーズは、教科書の実物がないと実感するのが難しいのではないかと思います。教科書は教科書取扱店でないと入手できないので、なんらかの方法で教科書の中身を参照できるといいと思います。著作権の関係で難しいかもしれませんが。本でもいいと思います。『教科書を使った法教育』などという本をつくるのはどうでしょうか? たとえば、今年度の光村図書第5学年国語の「想像力のスイッチを入れよう」注1という教材は面白いと思います。情報について、物事を多面的に見る重要性を伝える内容です。5年生社会科には情報化社会の教材がありますので、社会科の学習を意識して国語の教科書が作られているのだと思います。ただ国語の場合、教科書改訂の際に教材文が変わってしまうことがあるので、改訂の度にどんな教材文があるのかをよく見ていく必要はありますね。
 教科書についてのコメントは、法律専門家が発信してくれるのがいいと思います。それが広く知れ渡ることによって、法的なものの考え方が意識され、こんな実践はどうだろうかという新しい取組みにつながっていくのではないかと思います。自分自身、法教育を始めた頃は、憲法や法のことを子どもにわかりやすく教えることが法教育と考えていましたが、次第に法教育の目指すものが技能などいろいろな面で固まりつつあると感じます。小学校では、社会科以外の先生からも法教育についての話が聞かれ、教科の壁を超えるところまで広まりつつあると感じています。」

〈新しい教材アイデア②「昔話法廷」に関して〉

窪先生:「平成27年の夏にNHKで放送された「昔話法廷」注2はよくできていると思います。15分間で模擬裁判の題材が提供され、評議を考えるところで終わっているのがいいですね。議論をするのにとてもいい教材です。視聴覚教材は学校にたくさんあるのですが、いいものがずっと使われていくと思います。「昔話法廷」で法教育をするには、どういう視点から取り上げるといいのか、ガイドがあるといいと考えます。」
――作者の先生と窪先生でガイドを作っていただけたらいいのではないでしょうか?

〈新しい教材アイデア③弁護士と法教育教科書ガイド作成?〉

窪先生:「弁護士の先生とガイドを作るということでしたら、法教育の教科書ガイドができるといいなと思います。小学校の国語、社会科、家庭科、保健、道徳には、「なぜ法やきまりが必要か」を考えるのに適当なテーマがいろいろあります。家庭科は買い物の仕方のところで、商品表示に着目したり、身近なものに目線を広げたりするという発想がいいかもしれません。新聞記事が補強資料として使えると思います。
 教科書は、2つの方向で法教育にとって重要な教材だといえます。1つは、教科書の教材から法のエッセンスを抽出することで、授業としてのアイデアをまとめる方向です。もう1つは、まずこういう法教育をしたいという方向を決めて、それに合わせて教科書の教材を使うやり方です。
 変化の激しい時代を生き抜く子供たちを育てていくためには、自分のできることで社会に参画していく力や、未来について考え行動する力が大切だと思います。個人と社会との関係を定めている法について教える法教育は、今後ますます重要になっていくと感じています。」

 

注1:
光村図書ウェブサイト「作者・筆者インタビュー」参照:下村健一
http://www.mitsumura-tosho.co.jp/kyokasho/s_kokugo/interview/shimomura/index.html
注2:
NHKウェブサイト http://www4.nhk.or.jp/P3640/
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